V2HとはVehicle to Homeの略で、電気自動車(EV)に蓄えた電力を家庭用電源として利用するシステムを指します。これは、電気自動車を家庭用蓄電池として使う方法と考えると分かりやすいでしょう。ただし、一般的な電気自動車では家庭から電力を送ることはできても、電気自動車から家庭に電力を送ることはできません。「V2H」を実現するためには、電気自動車とEV用パワーコンディショナ(直流電気を交流電気に変換する機器)が必要です。※EV用パワーコンディショナは、電気自動車(EV)に貯めた直流電気を家庭で使える交流電気に変換するための機器です。
電気自動車(EV)の充電は、通常自宅のコンセントでできますが、蓄えた電気を家で使用する(放電)ことはできません。しかし、V2Hを導入すると、EVを大容量蓄電池として活用できます。これにより、蓄えた電気を家庭で使用する(放電)ことができ、EVを蓄電池として充電することも可能です。V2Hは、中継機のような役割を果たします。
近年のEVやPHEVに搭載されるバッテリーは、数百kmもの長距離走行に対応できるほど大容量になっています。しかし、この大容量バッテリーは走行していない時間帯には「置物」になってしまい、非常にもったいない状態です。この無駄を解消するのがV2Hです。V2Hを導入すれば、一般的な家庭用定置型蓄電池に比べて数倍~十数倍の容量を持つEVやPHEVのバッテリーを家庭用電源として活用できます。さらに、V2Hを導入することで、EVやPHEVの充電をより短時間で行うことも可能になります。
EVやPHEVに蓄えられた電気を家庭で利用するためには、専用のV2H機器が必要です。「自宅とEVやPHEVを単純に電気ケーブルでつなげばいいのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。V2H機器が必要な主な理由は、EVやPHEVと家庭で使用する電気の種類が異なるためです。
EVやPHEVのバッテリーに蓄えられた電気は、乾電池と同じ「直流」です。一方、家庭用の電気は「交流」です。つまり、EVやPHEVの電気はそのままでは家庭で使用できません。そこで、直流を交流に、交流を直流に変換する仕組みが必要です。この役割を担うのがV2H機器です。専用のコンセントを使えば、V2H機器がなくてもEVやPHEVの充電は可能ですが、EVやPHEVの電気を家庭で利用するにはV2H機器が必要です。また、V2H機器には家庭全体の電気を賄えるほどの変換能力があります。
V2H機器の役割は、単にEVやPHEVと家をつなぐだけではありません。機種によっては、電力会社からの電気や自宅の太陽光発電で作られた電気を、条件に応じて賢く振り分けることも可能です。各家庭の目的や条件に合わせて、V2H機器の運転モードを選択・設定すれば、自動的に電気の充放電を制御してくれます。
※太陽光発電の有無、太陽光発電がある場合はFIT(固定価格買取制度)期間中か卒FIT(国が約束した買取期間終了後)かなどを指します。
すでに太陽光発電を設置している家庭では、FITを利用して余剰電力を売電している方が多いでしょう。しかし、卒FITになると売電価格が大幅に下がるのが一般的です。その際の余剰電力を有効活用する方法として、V2Hの導入は合理的な選択と言えます。
V2Hの導入を検討する際に特に注意すべきなのが、V2H機器の種類です。現在販売されているV2H機器は大きく分けて「非系統連系」と「系統連系」の2種類があり、市場では「系統連系」型のV2H機器が主流となっています。
V2Hで扱う電気の系統は、EVやPHEVのバッテリー、電力会社からの電気、太陽光発電による電気の3つです。「非系統連系」とは、これらの系統が連携しないことを指します。たとえば、家に電気を供給する際、非系統連系型のV2H機器では3つの系統のうち1つしか選べません。つまり、EVやPHEVから家庭に給電している場合、電力会社や太陽光発電からの電気は利用できません。
※ 非系統連系型のV2H機器では、停電時に太陽光発電からEVやPHEVに充電できない点にも注意が必要です。
「系統連系」型のV2H機器は、EVやPHEVのバッテリー、電力会社からの電気、太陽光発電による電気を同時に利用できます。停電時にも太陽光発電からEVやPHEVに充電でき、昼間に発電された電気を蓄え、夜間に家庭へ給電することで、停電が続いても電気を使い続けられます。このため、系統連系型のV2H機器は、大きな災害が発生し停電期間が数日に及んでも電気を使用できる利点から、現在主流となっています。